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その3「呼吸を盗む」のつづき。

 ・対談 「上方芸人気質」 藤本義一・笑福亭松鶴 その4「客を意識してはいけない」

昭和50年代に<実業之日本社>から発売された落語レコードのシリーズ「六代目笑福亭松鶴」のライナーノーツに藤本義一先生と六代目松鶴師匠の対談が収録されていました。

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客を意識してはいけない

 藤本 芸というものは、どういうふうに解釈しはります。
 松鶴 解釈でっか。
 藤本 つかめるもんでもないしね。
 松鶴 わたしらやっていてね、芸ちゆうのは、どんなもんかわからへんな。もこっとしたもんでんな。
 藤本 そうすると、自分の影みたいなもんですか。
 松鶴 そうだんな・。
 藤本 ついてきよるしね、踏もうと思うたら、踏まれへんという・。
 松鶴 めったに踏まれしまへん。
 藤本 ぼくが何で影みたいなものかと感じたのは、フランスの小さい小屋で、パントマイムにちょっとしゃべり入れたのをやっていたのを見たことがある。それが自分の影と喧嘩しよる、ついてくる、それが笑いになるんですけども、踏もう押えようとしても、影がなくなったりする。照明で影を消したりしますのや。そのときにぼくは、それが芸の本筋みたいなもんかいなというふうに、言葉はわかりまへんけどね、やっているあれが芸やなという・。
 松鶴 ともかくわたしらは、芸そのものが、ああ、なるほど、これが芸やなァと、聞く側、見る側で感じるだけの話やろと思う。やっている本人はこれが芸だよ、芸術だよちゅうてやったんでは、おそらくあかんやろと思いますわ。
 藤本 芸術というのは嫌でしょうな。
 松鶴 嫌いでんな、芸術という言葉が。
 藤本 術というのはよろしいな。芸と術に
分けたら・。
 松鶴 術もぐあいが悪ゥおっせ。術やおまへんで、これ。われわれのやっているのは術やないと思いまんな。
 藤本 芸とは何でっしやろな。禅問答みたいやけど・。
 松鶴 もう芸だけの話でんな。芸がわかりまへんな。
 藤本 芸というのは、人を引きつけるための武器ですか。
 松鶴 そうでんな。
 藤本 あるいは自分を売り出すというか、相手に食い込んでいくための武器なのか、受ける武器なのか。
 松鶴 まあ、受身のぽう方でっしやろね。相手に切り込んでいくもんやないと思いまんな。
 藤本 手負いのシシみたいに、討たれよったら、こっちへ向かってくるようなもんが芸ですかな。いろんな種類の人がいらっしやるんだけれども、福団治君を見ているとね、手負いのシシみたいな、急に変わりますな、高座でね。
 高座に上がる前に楽屋に行って、「ちょっと見せてもらうわ」と言ってはいかぬ人と、言ってもいい人と二通りありますね。
 松鶴 あります。それは確かにおまんな。
 藤本 それは芸というものの種類が違うんでしょうな。われわれの中で受け取っているものが。「これから聞かしてもらいます」とやっていい人と、黙って見た人の芸は。
 松鶴 これはやっぱり意識しますさかいね。もう意識するっちゅうこと自体が、芸から遠ざかっているわけでっさかいね。
 藤本 すると、馴染みの女がすわっているとしますな。
 松鶴 もうそんなときはメロメロでんな。ここでパーツと聞かしてやろってなことを思うてね、するとメロメロになりまんな。
 藤本 嫌なもんですな。
 松鶴 そやさかいになるべく客さんの顔を見ぬようにせないけまへんねんけどね。われわれバッと舞台へ出たら、知っている顔、馴染みの人が来てはるの、すぐに目につきますさかい。そうすると、やっぱし具合が悪い。
 藤本 たとえば師匠なんかの場合、お父さんが一番いやだったんでしょうな。
 松鶴 そやさかい、おやじは絶対にーーわたしがやっぱしおやじの真似してまんねんな。弟子の舞台を全然隠れたとこで聞いてる。それも聞いたぜェと言わぬと、「だいぶにようなりよったなァ」とか、悪いとこがあったら、何かの機会の時に「おまえのあの噺、どない言うてんねェ」ちゅうたり、そりゃあ、違うぜといって、そこで直してやるとかね。これはうちのおやじがそうでした。おそらくわたしが舞台出ている時には、絶対に囃子場とか、そういうとこに来ぬと、楽屋の一番奥で聞いてるんでんな。
 藤本 そうすると、いま師匠はその境地に入って来ましたな。
 松鶴 いまそないしてまんねん。そやさかいに弟子にだまされまんなァ。福笑なんか二十六や言うておったのに、三十二やで、ほんまの歳。六つから歳ごまかしております。これも変わってまっさ。
 藤本 そういう中で芸をつかむ勘どころみたいなのあるでしょう。これは人によって違うだろうけれども。
 松鶴 十人が十人とも違います。
 藤本 例えばどんな種類がありますか、変わったつかみ方は。一つ一つわかるものなのか、徐々に積み土げてきて昧が出てくるものなのか。
 松鶴 徐々に積み上げていかぬと、昧は出てきまへんな、昧そのものは。
 藤本 例えば師匠の場合、三十代と今とだったら、同じ噺があっても、どこがどう違うということは自分でわかりますか。
 松鶴 やっぱし今は余裕が出てきましたな。舞台に出て、あせらしまへん。若い時分は、お客さんがパッと一人でも横向きはるとか、立ちはるとね、あせって、バーッと何とかしてあのお客さんつかまんならんとする。不思議なもんで、漫才の場合は二人でやってはるけど、それでもやっぱし立たれたり、便所へ行かれたら、気になるんでっしやろな、「どこへ行きはるねん」とかいうて、相手になっておる。落語の場合、それ言えへんさかいにね。そやさかいに、そこでバッと息が抜けてしまうんでんな。それが、今はもう立ちはろうが、小便しに行きはろうが、横向きはろうが、平気でしやべ喋っていられるようになりましたな。それが余裕ちゅうんでっしやろな。
 藤本 それだけ噺の幅は出てきますわね。
 松鶴 それで、自分でやってて、ここんとこ、こういうふうに喋ったほうがええな、とかね、舞台ですぐに思うように近ごろなってきました。

その5「芸は客が評価する」につづく。

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ディスク:1 らくだ、ちょうず廻し
ディスク:2 饅頭こわい、遊山船
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