その2 「落語家は死なない」のつづき。
・対談 「上方芸人気質」 藤本義一・笑福亭松鶴 その3「呼吸を盗む」
昭和50年代に<実業之日本社>から発売された落語レコードのシリーズ「六代目笑福亭松鶴」のライナーノーツに藤本義一先生と六代目松鶴師匠の対談が収録されていました。
にほんブログ村呼吸を盗む 藤本 上方の芸ちゅうのは、土の匂いから生まれてきたようなーー終戦直後、大阪の焼け跡に立ったときに、大阪平野で、大阪城だけ見えていましたが、そんな感じですな、ベタッとした。こういう大阪の芸と、関東とか北の方とはずいぶん違うと思うんですな。
松鶴 わたしも大阪の落語ちゅうのは、子供の時分から聞いてますけどね、これは東京の噺家はんでも、みんな同じでっけど、やっぱし個性のある人が印象に残ってまんな。また大阪の噺家は個性のある人が多おましたわ。
藤本 というのは、例えば東京の場合は縦の線がきれいにありますな。大阪の場合、横の線のほうがあるでしょうな、一党一派みたいなもんですか。
松鶴 そうでもないんでっけどね。噺家の層の底辺の広さちゅうんでんかな、これはやっぱし大阪の方が、昔は多かったんと違いまつか。
藤本 上方の芸人、とくに落語の場合、東京へ行った人が名前変わりますな、全部。というのは、輸出していたわけですな、江戸に。
松鶴 そうです。東京から必ず修行に来る。あんまり大阪から東京へ噺の修行に行く人はなかったんでんな。噺の修行をする人は、大阪へ来て、大阪でみな稽古しはったさかいに、自然と大阪の噺を東京へ持って帰ってやりはったわけでんな。
藤本 人間は芸というものに執着していきますわな。何をやってもええわけですか、落語家というのは。
松鶴 邪道とか何とかいわれますわね。踊り一つ踊っても、あいつは噺が下手やさかいに、逃げに踊り踊りよるのやと。そやから、あんまり噺が上手で、踊りが上手ちゅう人はなかったんですわね。たいてい噺の下手な人が踊り踊っていたわけだ。いまの春団治が小春のときからずっと踊りを踊っていましたんやけど、踊りという武器があるがために噺が伸びぬさかいに、「踊りやめたらどないや」ちゅうてね、わたいらが言うたんだ。彼もぶっつりやめましたしね。噺も上手で踊りも上手やったのは三木助師匠(二代目) です。この人がまた変わった人やったけどね。
藤本 たとえばわれわれもの書きでも、盗作やないけど、何か目立つ人の、呼吸とか、文体みたいなものを盗もうとしますわな。芸の場合はよけい盗もうとするわけですな。盗み方ってどんなのがあるんですか。
松鶴 そうでんな、やっぱし呼吸でっか。
藤本 息ですか。それは聞いてな仕方がないですか。
松鶴 ええ、もう何べんも何べんも聞いて、それも盗もうと思うてへんかっても、その呼吸を自分が覚え込んでしもうたら、自然と舞台に出てきまんな。審査員なんかやっておると、一番ようわかるんだ。この噺、だれそれに教えてもろうてんやろちゅうて、すぐわかるのんと一緒でね、やっぱし呼吸が、ああ、これはだれそれの呼吸やと。
その4「客を意識してはいけない」につづく。
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収録音源は『猫の災難』『三十石』『天王寺詣り』
↑ビクターのスタジオ音源のようです。
・・・と思っていたら、「全席初出し音源」と書いてありますね。機会があったら確認してみます。
↓こちらも「上方はなし」からのセレクト。
六代目 笑福亭松鶴 セレクト1
ディスク:1 高津の富、天王寺詣り
ディスク:2 貧乏花見、蛸芝居
六代目 笑福亭松鶴 セレクト2
ディスク:1 らくだ、ちょうず廻し
ディスク:2 饅頭こわい、遊山船
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