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その5「芸は客が評価する」のつづき。

 ・対談 「上方芸人気質」 藤本義一・笑福亭松鶴 その6「落語家の敵」

昭和50年代に<実業之日本社>から発売された落語レコードのシリーズ「六代目笑福亭松鶴」のライナーノーツに藤本義一先生と六代目松鶴師匠の対談が収録されていました。

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落語家の敵

 藤本 芸の上で壁にぶつかりますな、何回も。どないしまんのや、そん時は、逃れるすべは。
 松鶴 つまり壁にぶつかるさかいに、壁を遠まわりして行くか、壁にぶつかって、どこかこの壁を通り越すとこないかいなと、あっちこっち探しますわね。これは誰でもあることですわね。ずうっと先にまわれるとこがある、そんならまわるちゅう人もある。わたしの場合は壁を倒してでも乗り越えたろっちゅうので、来ましたな。壁はやっぱし、...三十年の間に五へんぐらいおまんな。昨日まで受けていたのに、もうそのあくる日クスッともお客さんがいいまへん、笑いまへんねん。
 藤本 それは何でですか。
 松鶴 何でやわかりまへん。またあくる日やりますわね、同じ噺。何で昨日受けへんのかと。ほんなやっぱし笑いまへん。こういうのがずうっと半年くらいおまんな、そうすると、全部自信失うてしまうんだ、どの噺も。
 藤本 落語家を殺そうと恩ったら、笑わへん客を団体で入れて・・・・。
 松鶴 もう一ペんだっせ。みなにナンボかやってね、笑うたらアカンちゅうて・・・・。
 藤本 それは神経が一ペんにいってしまうでしょうな。
 松鶴 別にそんなにぎょうさんいりまへんで、五人ほど入れて。前で「フワー」とかましたら、そりゃもうどないにもこないにもしようがない。声出してあくびされたら、もうこんなやりにくいことおまへんわ。ようあるんですわ、新世界の新花月あたりでね、わざと「フワー」とあくびしよりますわ。
 藤本 芸の壁はそれとして、病気がありますな。これはどない克服しますかな。休めませんやろ、休演ちゅうのはあまりええことおまへんわな。
 松鶴 昔はほんまに入院せなあかんほどの病気にならぬ限りは、どんな病気でも休まぬと出てはりましたな。今はみんなぜいたく贅沢過ぎるんでっしゃろな。ちょっと風邪ひいたさかい、声が出にくいさかい休むとかね。昔の人は少々の病気ぐらい平気で出てはりました。
 藤本 淋病なんかになったら、やっぱし噺の内容が変わってきますやろな。
 松鶴 昔の噺家、淋病と梅毒にかかり通しでしたさかいね。そやから、何ともないのと違いまっか。
 藤本 たとえばコレラとかチフスになったら、どうするんですか。
 松鶴 それでも舞台へ出てはったらしゅうおまっせ。それがために小屋休まれたりしたことがおますわな。
 藤本 だんだん広まっていきますわな。コレラの記憶ないですか、全部閉鎖なったっちゅうような。
 松鶴 そうでんな、わたしら子供の時分でしたが、コレラが流行ってんのんで、席屋とか映画館全部休みになったことがおますな。三日間ほど休んだのと違いまっか。
 藤本 堺とか天神とか、記録によると席亭が死んでいきますな、コレラで。落語家といのはあまりかかってないですな。
 松鶴 おかしゅうおまんな。コレラとかああいうのんかかっても、平気だしたんだな。
 藤本 コレラにかかって平気ということはないでしょうな。
 松鶴 いやァ、わりに平気でしたんと違いまっか。コレラでえらい熱出して、舞台勤めていた人があるらしゅうおまっけどね。
 藤本 らい病はおまへんでしたやろな。
 松鶴 らい病の方はおまへんなんだね。昔は目の悪い人は多かったんですが、やっぱし梅毒でっしやろね、梅毒で目がつぶれてるんだんな。そのままで舞台へ出てはったんだ。
 藤本 そうすると、噺家の敵は何ですかな。敵を挙げていくとなれば、病気もありますな。
 松鶴 もちろん病気もおますし、一番しくじってるのは女子でっしやろな。それと博打(バクチ)ですな。
 藤本 打つ、買うですな。酒ではあまりしくじりませんですな。
 松鶴 お酒なんかしくじりに入りしまへん。毎日のことですやさかいね、酒でトチったり、何かするのは。今と違いまして、昔は夜席だけですさかい、昼間は酒飲みはみな酒飲んでおりましたさかいね。
 藤本 今の芸というやつが、ちょっとサラリーマン化してきたですな。
 松鶴 ええ、ぽんとどサラリーマンと同じような・・・。
 藤本 貧乏ということは全然こわくないですな。
 松鶴 貧乏知りまへんやろ、今の噺家は。
 藤本 師匠は貧乏というのはこわくないでしょう。
 松鶴 わたし、こわいことおまへん。
 藤本 もう借金はおまへんか。
 松鶴 まだあるとこおまっせ。
 藤本 何年はどかかって・・・。
 松鶴 もう二十年ぽどほったらかしてあるとこ、おまっせ。
 藤本 もう払わんでよろしいな、そうやったら。
 松鶴 もうそのおやじさん死にましたしね。

対談 「上方芸人気質」 終了。

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ところでこのレコード。収録内容はビクターより発売されていた「上方はなし」からのものでした。
これらの音源も近年めでたくまとまってCD化されました。



収録内容詳細はじゃぽ音っと】作品情報:六代目 笑福亭松鶴 上方はなし(14枚組)

お手軽入手はこちら↓


CDつきマガジン 隔週刊 落語 昭和の名人 決定版 全26巻(19)
六代目 笑福亭松鶴 (雑誌)
収録音源は『猫の災難』『三十石』『天王寺詣り』

↑ビクターのスタジオ音源のようです。
・・・と思っていたら、「全席初出し音源」と書いてありますね。機会があったら確認してみます。



↓こちらも「上方はなし」からのセレクト。


六代目 笑福亭松鶴 セレクト1
ディスク:1 高津の富、天王寺詣り
ディスク:2 貧乏花見、蛸芝居


六代目 笑福亭松鶴 セレクト2
ディスク:1 らくだ、ちょうず廻し
ディスク:2 饅頭こわい、遊山船
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